大学が知的財産権紛争に巻き込まれることは、大型の知的財産権で、数が少なければ首肯できないこともない。しかし、現実に大学を取り巻く発明の数は無数であり、特許権者の数も無数である。ひとつひとつの試薬や機械、方法に発明が係っている可能性がある。この現実を目の前にすると、研究者が考えることはひとつ、「特許なんて不要だ、害だ。」特許権の存在を気にしていたら研究は進められないし、下手に発表したら訴えられる可能性すらある。ひとたび訴訟の被告になれば、風評被害は受けるし、訴訟費用がかかる。そんなことなら、研究は止めた方が良い・・・。ということで、大学の研究への知的財産権の過度のenforcementは、大学の研究の進展を阻害することとなるのである。いわば萎縮効果(chilling effect)である。
文部科学省も大学も、このような大学への知的財産権の進出をなんとか阻止できないか、と考え、特許法第69条の試験研究の例外条項(特許権は試験研究には及ばない、としたもの)の活用を図ることを考えた。しかしながら、経済産業省と特許庁の見解は、正しくも、これに否定的であった。つまり例外的な場合を除いて、大学の研究者が特許法における試験・研究の例外によって保護されることはないのである。残念ながら、このような見解は歴史的にも、世界的にも、解釈論的にも正しいものといわざるを得ない。
となると、人々は「政策的に」問題を解決しようとする。これが、大学の特許権からの免責制度(immunity)の確立であったり、連邦とのcontractor agreementの存在を理由とする免責の確立であり、米国ではこのような動きが始められた。しかしながら、現在のところ、このような動きは成功に至っておらず、日本においてはむしろこれからの課題といって良いであろう。